2024年2月にNHK BS、4月にNHK総合で放送されたウクライナのドラマ。2022年2月に始まったロシアの軍事侵攻下で運転ボランティアとして活動することになる心理学者のリディアとその乗客との交流を描いたドラマです。全10話中5話まで放送されました。6話目以降は制作中なんだとか。戦時下での制作・撮影は大変なんでしょうね(涙)
原 題:Pereviznytsya
英 題:In Her Car
制作国:ウクライナ、フランス、ドイツ、スイス、アイスランド、スウェーデン
このドラマは主人公リディア自身と乗客との2軸で進みます。ポイントはリディアがウクライナ東部出身ということ。東部と言えば、元々親ロシア派との派閥や争いが絶えない地域なので、東部出身というだけでロシア派のスパイなのではと疑われることもしばしば。まずは乗客の物語から。かなりネタバレしてますのでご注意ください。
1話:姉妹
首都キーウから東部ハルキウまでの運転です。軍事侵攻直後に東部の実家へ戻ろうとする女性オリガを乗せます。このオリガには姉のモノは何でも手に入れてしまう妹がおり、恋人までも取られます。妹と元恋人の結婚式が開かれ、参加したオリガですが、結局元恋人はオリガを選んでキーウへ駆け落ち、妹との仲は険悪になりました。そんな苦い思い出を噛み締めながら実家に到着すると、お家は跡形もなく破壊されていたため泣き叫ぶオリガ。しかし、妹は避難しており無事に再会、泣きながら抱きしめ合います。
2話:文字が読めないお姫様
ハルキウからポーランド国境へのドライブ。乗客はリディアの夫ディマの愛人インガ。愛人を安全な国外へ行かせるため、離婚の条件として妻に愛人を送らせようとするクズ夫に驚きです。道中、インガはお化粧直ししたり、愛犬のために停車させたりなどやりたい放題ですが、それもそのはず、ミスコン出場者の美貌の持ち主でちょっとおバカな世間知らずな感じがあり、まさにお姫様。しかし、パンクを修理したりと逞しい一面もあったり、ディマとの結婚を夢見る可愛らしい女性でもあります。国境へ向かう車道は当然ながら大渋滞、停車中の車内でリディアはインガの出国書類を目にします。その書類からディマがリディアと離婚する気がないことを知ります…ショックで車から飛び出し、ディマに電話…あぁディマがマジでクズ過ぎる…真実を知り泣き崩れたインガの後を追うリディアはインガのお腹が大きいことに気付きます。国境でリディアを待つリディアの娘ダーシャにインガを預けてドライブを続けます。
3話:額に月がある少女
フランス人中年夫婦クリスティアンとレアを国境まで送るドライブです。このドライブはリディアの友人オクサナからの依頼でした。オクサナは夫妻の息子シモンと結婚しており、夫妻は義両親です。息子を溺愛する母レアは、子持ちのオクサナと息子の結婚を良く思っておらず、シモンと一緒にフランスへ帰国しようと説得しますが失敗。シモンはウクライナに残ります。道中はオクサナに対する不満や愚痴を聞かされたリディアでしたが、シモンがジャーナリストとして危険地帯へ行ったことが分かり、予定を変更してシモンの元へ向かいます。まぁ息子が安全な場所にいるならまだしも、ウクライナで気に入らない女性と一緒ならそう言いたくもなる…かな?
4話:ずる賢いキツネ
ビラ・ツェルクハからフメリニツキー経由、モルドバ国境へのドライブです。当初は軍人の父を病院へ送りたいという臨月の娘イラの依頼でした。しかし、イラの夫で元ボクサーのニキータが義父の薬をもらいにモルドバ国境行きへ変更されます。元ボクサーのニキータは軍事訓練で少尉になるぐらい強くて健康なウクライナ人男性ですが、彼の言動から国外逃亡しようとしていることにリディアは気付きます。目的地に着いたところで、非難はしないけどやめた方が良いと諭したリディアでしたが、ニキータは車を降りてコーディネーターのような男と落ち合います。男はお金を数えたいからと2人でリディアの車の後部座席に乗り込み、お金と兵役不適格の証明書の受け渡しをした瞬間、警察に包囲されます。共犯者だと誤解されて一緒に捕まったリディアでしたが、潔白が証明され解放。警察は1週間前から偽造書類の元凶を捕まえようと張り込んでいました。詐欺師は裁判のあと刑務所に、ニキータは多額の罰金と徴兵、最低1年は出国禁止になるらしい…
5話:バイオリンになった少年
オデーサからキーウへのドライブです。孫パブロの戦地赴任を見送りに祖母ターニャを乗せて運転します。ターニャの娘(パブロの母)の育児放棄により、手塩にかけて育ててきた孫ですが、彼は同性愛者であり、それが受け入れられないターニャと喧嘩別れしていました。基地の入り口に到着したものの、あとちょっとで間に合わず、パブロに会えませんでした。そんな時、同じく見送りに来ていたパブロの恋人ミロスラヴと遭遇。彼がリディアを手配し、仲直りのお膳立てをしていたことが判明。リディアはパブロに会えなかったショックでパニックになっているターニャとパブロのためにミロスラヴに案内を求め、ボルィースピリ方面に向かうバスを追いかけ止めます。バスから降りてきたパブロとターニャは抱き合います。
ここまでざっくり乗客の物語を紹介しましたが、個人的には2話と4話が好み。2話の愛人インガは登場からふてぶてしくてヤベー女感半端なかったのですが、最後には幸せになってほしいと願わずにはいられなくなるぐらい急展開でした。やはりいざという時の女性は強いですね。逆に4話では逞しい成人男性ニキータが国外逃亡しようとしました。「強い男だって、命を失うことは恐れる」とリディアは言いましたが、本当にその通り。ニキータは肉体的に強くても、心優しい男性です。しかもニキータの妻イラは臨月で、不妊治療を経てやっと授かった様子。念願の赤ちゃんにとっても幸せそうな笑顔を見せる反面、戦争は見せたくないと暗い顔で言うところが印象的でした。
さて、主人公リディアにはナタリアという妹がいましたが、2014年ウクライナ東部戦争で避難用バスが爆撃され亡くなりました。なぜそのバスだったのか、なぜそのバスに妹が乗車していたのか、リディアは独自に真実を探っています。そこで出てくるのが不誠実な夫ディマ。インガという愛人を妊娠させておきながら、離婚しない。離婚しないのも基金の不正がバレるから…ロシアとの関りがチラチラありそうな上、どうやらナタリアの死にも関わっていそうで、怪しさプンプンです。ディマの正体がとても気になりますが、残念ながら放送された5話まででは解明されず、6話目以降が放送されるのを待つしかありません。ディマの物語は私の記憶も薄いので、新エピソードが始まったら改めて語りたいと思います。
ちなみにですが、4話で国境を超えるために詐欺師と落ち合う青い教会がとても美しく、気になったので探しました。
ヒントとして
・青い木造っぽい教会
・教会建物が小高くなっている
・教会の横は湖または池っぽい
・Criva(モルドバの国境都市)まで8km
というわずかなヒントでウクライナとモルドバ付近をGoogle Mapで大捜索しました…が、全然見つかりませんでした。これはまさか…ロケ地は別なのか…と思い「ウクライナ 青い教会」などで国境関係なく検索しました。結構いろんなワードで検索かけてやっと見つけました!じゃーん!
場面と照らし合わせて、ちゃんと一緒だったのでこの教会に間違いないと思います。劇中は冬で天気が悪かったため建物はグレーっぽい印象でしたが、やはり綺麗なスカイブルーです。この教会はキーウ市内の独立広場から車で約1時間、ボルィースピリ国際空港から約30分ぐらいのキーウに近い場所に位置してます。国境まで8kmの看板はもちろん無く、あれはドラマ用に設置されたものだったわけです。だからどうなんだって話なんですが、この教会を捜し当てるのに、ウクライナの色んな教会を検索しました。中には軍事侵攻で壊された教会もいくつかあって、それはそれで本当に悲しくなりました。日本で言う神社やお寺が壊された感じでしょうか?心の拠り所にされていた方もいたでしょうから腹立たしいです。
2022年2月のウクライナ侵攻はショッキングなニュースでしたが、ウクライナの人からすると10年前からくすぶっていた火種が徐々に爆発した感じなんだなと分かるドラマでした。NHKのドキュメンタリーで徴兵を逃れるために国外逃亡や学生になる男性が急増したというのを見ました。ウクライナ人として国の役に立ちたい気持ちはあるけど闘いたくない、ただただ勉強をしたい、仕事をしたいというごく普通の日常を求めている人たちも沢山います。どんな決断をしても非難されない、当たり前の平和な日常が、一日でも早く戻ることを願わずにはいられませんでした。